欧州視察(スペイン・ドイツ)
【平成30年12月1日(土) ~ 12月8日(土)】
沖縄経済同友会では国際委員会を中心に、海外におけるビジネスの可能性及び先進地事例の調査研究の一環として、毎年海外視察を行っております。これまでに、アジア各国やアメリカ、ニュージーランドを訪問し、海外展開を進めている企業や海外企業・官公庁との意見交換を行い、ビジネスの展開及び沖縄経済発展への可能性を調査しており、今年度は欧州(スペイン・ドイツ)視察を実施しました。
(出発式時の写真)
【概要】
大都市バルセロナでは、ICTを活用した持続可能な街づくりや世界有数の観光先進地の現状について所管する行政府を訪問し、古都トレドでは再生可能エネルギー先進国であるスペインを支える仕組み等について学ぶべくスペイン大手電力会社であるイベルドローラ社の再生可能エネルギーオペレーションセンターを見学しました。リゾート地であるマジョルカ島では、島嶼地域におけるオーバーツーリズム(観光客が増えすぎたことによる弊害が起きている状態)の現状等についての視察や地元行政府との意見交換を行い、「世界最高水準の観光リゾート地」を目指す沖縄の在り方について考えさせられました。スペインの首都マドリッドでは、平成27年から1年間外務省沖縄担当大使を務められた 水上 正史(みずかみ まさし)駐スペイン大使に現地事情のブリーフィングを行っていただき、日系企業の方を交えての夕食懇談会で、様々な意見交換を行いました。デュッセルドルフ(ドイツ)では、2本の平行滑走路にてオペレーションを行っているデュッセルドルフ空港にて、2020年に運用開始を予定している那覇空港第2滑走路の今後の課題や解決策等について現場視察や意見交換を行いました。
【各視察先報告】
1.バルセロナの観光政策及び街づくり関連視察@Barcelona Activa(12/3)
【Ajuntament de Barcelona(バルセロナ市)、22@Barcelona、Institut Municipal d´Informatica de Barcelona(バルセロナ市情報局)】
・バルセロナは食、文化、歴史など非常にマルチな要素にあふれ、ミシュランの星付きレストランを23店擁し、MICEシティとしては世界一、ホテル宿泊客数はヨーロッパ5位の都市である。バルセロナが大きく変わったのは1992年のバルセロナオリンピックが大きなきっかけである。オリンピック以降、観光客はどんどん増え、2017年のバルセロナ空港の利用客数は4,700万人、バルセロナ市へは人口約160万人に対し約2,800万人の観光客が訪れている(地中海クルーズの客数270万人)。
・観光が経済に与える影響は大きく、GDPの12%を占め、バルセロナ市内では雇用の9%を生み出している。
・1993年に観光ツーリズムのセクションを作り、2007年にかけて観光客の誘致を積極的に行った。一方で、増えすぎた観光客に対する問題へ対処するべく、2008年に新たな観光戦略を打ち出した(2008年~2015年の戦略なので2015年戦略と呼んでいる)。サグラダファミリア、グエル公園等の施設への観光客入場を予約者のみに規制するといった措置もとっている。
・2016年の市民アンケート結果で約11%の市民が観光客に不満を持っていることが明らかになり、現在は女性市長を中心に増加する観光客への対応策を実施。バルセロナ市民にリーダーシップを取ってもらうようにしており、観光政策についてはバルセロナ市役所、バルセロナ市民、民間企業が話し合って決めている。その際の議事録もネット上で公表している。
・「Your holiday,Our everyday,Let’s share Barcelona」というキーワードを発信し、観光客との共生を進めていく姿勢を前面に出している。こういった取組も沖縄にも必要なことだと感じた。
・バルセロナはスマートシティとしても世界的にも注目されており、あらゆる場所でデータ収集が行われている。ゴミ箱に設置したセンサーを使用しての適切なゴミ収集車の運用、スマホでの空き駐車場やレンタル自転車の空き状況などを確認できるようである。センサーから得たデータを如何に有効利用するかが重要である。バルセロナ市では、自市の情報を囲い込むのではなくオープンにすると共に、すべてのデータを一つのプラットフォーム(=City OS )で分析している。この仕組みが非常に重要である。
(参考:バルセロナ市内視察)
世界遺産であるグエル公園には多くの観光客が押し寄せて、バルセロナ市民が快適に利用できないとの苦情があったことから、今では30分毎に400枚しか入場券(8.9ユーロ)を発行しないなど入場制限が行われている。入場料による税収は約8億円で、公園内の補修費等に充てている。
※バルセロナ市民はパスを申請すると無料で入場できる。
(多くの観光客で賑わっている様子)
(市内を一望できる絶景ポイントのすぐ隣では補修工事が行われていた)
(グエル公園敷地内には市立小学校もある)
バルセロナ市内では自動車を使わせないような取り組みをしており、バス専用レーンや市営レンタサイクルが整備されていた。レンタサイクルにおいては1回辺り2時間以内に返却すると年間50ユーロで利用でき、400近くある駐輪場にて乗車及び乗り捨てが可能となっている。
2.再生可能エネルギー関連視察@トレド(12/4) 【Iberdrola CORE(イベルドローラ社 再生可能エネルギーオペレーションセンター)】
・イベルドローラ社は、スペインに本拠を置く多国籍電力公益企業で、世界各国に水力発電、コンバインドサイクルガス、原子力などの発電設備を所有している。
・今回視察したトレドにある再生可能エネルギーオペレーションセンター(CORE)は、世界で始めて再生可能エネルギー施設と関連する変電施設を一年中制御するセンターとして2003年に設置された。
・スペイン、アメリカ、イギリス、メキシコ、ブラジル、ポルトガルなど8力国の風力発電設備を遠隔で制御している。
・風力発電に注力しており、6,249基の風力発電設備を所有している。風力発電の出力増加に伴い、供給過剰の状態にならないように供給予測をしっかりと行っている。本来、自然エネルギーは供給予測が難しいといわれているが、誤差は最大でも10%程度である。
・スペイン全体の電力需要の60%を風力発電でまかなう日もある。(2015年には70.4%を記録)
・再生可能エネルギー運用センター(CORE)には、世界各国から政府高官等が視察に訪れる。日本の皇太子や世耕経済産業大臣も訪れた。
3.水上駐スペイン日本大使公邸での夕食懇談会@マドリツド(12/4)
・平成27年6月から1年間外務省沖縄担当大使であり、当時当会の特別会員でもあった、駐スペイン日本国特命全権大使である水上大使のご好意で、大使公邸における夕食懇談会に招待された。
・夕食懇談会には現地日本企業の商工会議所メンバー(水曜会)も招かれており、水上大使のスペインの概況に関するブリーフィングのあと、夕食を取りながら、スペイン・沖縄相互の歴史、文化、産業、観光等について意見交換を行った。
・水上大使の「スペインはフラメンコと闘牛だけではない欧州の大国」とのキーフレーズに基づく様々な話題から、スペインにはこれまでのイメージとは異なる多くの側面があることを知った。
4.島嶋地域の観光政策関連視察@マヨル力島(12/5) 【Govern Illes Balears(バレアレス諸島州政府)】
・マヨルカ島は、地中海西部のバレアレス海に浮かぶバレアレス諸島最大の島(沖縄本島の約3倍の面積)であり、スペイン王室一家もバカンスに訪れる人気のリゾート地である。
・夏場(5月~9月)に年間観光客数の約7割が集中しており、冬場の誘客として「Better in Winter」をキャッチフレーズにMICE、スポーツ、食などをPRしている。
・バレアレス諸島州4つの島での人口が110万人に対して、年間1,700万人(宿泊者のみカウント)の観光客が来ており、平均5泊~6泊滞在している。
・1980~90年代、ホテルの乱立等により景観・自然環境が悪化したことから、現在はホテルベッド数の上限規制が設けられている。また、民泊施設に対しても事業を始める際にはベッドを置ける権利を州政府から購入する仕組みにしている。このような権利を販売して得た資金は観光関連のインフラ整備に使用されている。
※ベッド数は「ホテル30万+民泊9万」と十分な数があるとの認識で、新しくホテルは作らせないような方針の様である。
・2016年には観光税が導入された。具体的な税額はホテルの星の数や季節により決定される(例:夏場4ユーロ/人、冬場1ユーロ/人)。使途としては、環境や文化財の保護、観光多様化のための投資、観光従事者への教育などに利用している。徴収方法は、宿泊者から「宿泊料+観光税」という形で徴収し、宿泊施設がまとめて納税する仕組みとなっている。
・また今年7月にはエアビーアンドビーをはじめとする民泊仲介サイトによる共同住宅の短期滞在を禁止するなど厳しい規制も行っている。(仲介業者や無許可のアパートに罰金)
5.デュツセルドルフ空港視察@ドイツ(12/7) 【Düsseldorf Airport(デュッセルドルフ空港)】
・デュッセルドルフ空港は、フランクフルト空港、ミュンヘン空港につぐドイツ国内第3位の空港である(2017年は、乗客数=2,460万人、離発着数21.4万回)。町中にあるので、空港の敷地面積はそれほど大きくないが、メッセ会場などに空港から10分で行けるなどアクセスに関しては立地が良い。また、ターミナルが一つしかなく乗り換えに要する時間も短くできる(最小では35分で可能とのこと)
・ターミナルに近い南滑走路3,000メートル(メイン滑走路)と1992年に増設された北滑走路2,700メートルの2本の平行滑走路を擁する。二本滑走路間の離隔距離が500メートルしかないことから、両方の滑走路で自由に離着陸ができないクローズパラレル運用となっている。(那覇空港と同様)
※南滑走路(メイン)は離陸、北滑走路は着陸に使用されることが多い。また、2本の滑走路間は5本の連絡通路で結ばれている。
・空港の敷地境界の近くには民家があり、滑走路の延伸や拡張はできない。また過去に地元住民からの騒音等の苦情を受け、滑走路の運用に関する協定を締結しており、北滑走路の離着陸数は南滑走路の半分以下にする必要がある。
・現状、同空港での1時間当たりの離着陸数が47回という制限がある。増える航空需要に対し、60回に増やしてもらうように2015年から申請しているが、なかなか認可されない。今後も増加する空港の利用客数に対応するためには、様々な制限のなかで工夫していくしかない。
・空港へのアクセスは、鉄道の駅が2つおよび道路(アウトバーン)がある。アウトバーンを利用して自動車で来る方が多いが、自動車による交通渋滞については、金曜の夕方などある特定の時間帯には発生するが、慢性的なものではないようである。
視察報告書を掲載します。興味のある方はご一読ください
最後になりましたが、本視察におきましては、水上駐スペイン日本大使をはじめ、多くの方にご協力頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。
(文責:沖縄経済同友会 事務局)